ミニマムな暮らし 1LDK

今までのこと これからのこと

母のおたま

母は片付けが上手ではない

 
子供の頃は そんな母を
『だらしない』と感じていた
 
それに加えて いろいろあり
母への反抗期は長かった
 
中学生の頃
台所の引き出しを よく片付けた
 
母がぱんぱんに詰め過ぎて
引っかかり 開かなくなる
 
私は いつもいらいらして
不満を抱えながらの作業
 
ある日 滅多に開けない引き出しの奥から おたまが6つも出てきた
 
私は母を責めた
 
何を言ったか憶えていないが
『恥ずかしい』
『他のお母さんは…』
そんな事も口走っただろう
 
いつもの口喧嘩
いつしか おたまの事も忘れた
 
私も成人し 働き 一人暮らしも長くなった
30代後半ころ
 
日々の憂さを 
買い物ではらすようになった
 
ずいぶん無駄なこともした
 
周りが皆しっかり堅実に
生きているように見えて
自分が恥ずかしく感じる
 
けれどそうせずには
いられなかった
 
そんなある日 ふと
母のおたまを思い出した
 
『母はなぜあんなにも買ったのか』
『買わずにはいられなかったのか』
 
専業主婦の母ができる
憂さ晴らしの買い物は
台所道具ぐらいだったろう
 
そんな事を 初めて思い巡らすと
母を責めた自分が恥ずかしく
涙が出た
 
母も弱かった
 
初めて母を
理解できたような気がした
 
私は母と同じなのだ
 
母を理解できて 
詫びることができたことで
 
自分を理解し
許すことができたと思う
 
結婚し 実家を離れ
いま思い出すのは おたまではない
 
大雑把でも 美味しい料理を作る母
隣で鍋をぴかぴかに磨く片付け上手な父
 
二人の子に生まれて
本当に感謝している。