ハグ
先日 通りを見渡せるカフェの窓から
ぼんやりと眺めていた
テラス席に座る 背を向けた男性は
iPadを見ながらも
通りの向こうにある 改札を気にして
誰かを待っているようだった
少しすると 彼に向かい ゆっくりと
歩きながら近づいてくる男性と女性
ご両親と思われる お二人は
大きめのトランクケースひとつと
小さめのショルダーバック
着慣れたポロシャツと短パン
柔らかい花柄のシャツにスカート
それと 満面の笑み
立ち上がった 彼の前にたどり着くと
変わりないことを喜ぶように
全身を眺めてから
ゆっくりとハグをした
ガラス窓があるのと
聞こえたとしても英語の会話は解らない
ただ 直ぐに 母親に席をすすめ
労うように父親から荷物を受け取り
メニューでお茶を選ぶ彼は
気の利く自慢の息子なのだろう
ご両親はずっと笑顔のまま
彼の顔を見ていた
彼等のゆったりとした動きは
私には衝撃的なほどだった
私は久しぶりに会った家族の顔を
こんな風に眺められただろうか
毎日一緒に過ごす夫の様子に
変わりないかと意識を向けられて
いるだろうか
彼等はまた席を立ち
楽しそうに歩き出す
とにかく ゆったりとした
歩調と表情が印象的だった
ハグする姿は まるで
スローモーションのように映った
私は “気忙しすぎる”
歩調や 視線も
言葉も 表情も 呼吸も
私は “気にし過ぎる”
他人の眼や スマートフォンばかり
もっと 目の前にある 大切なことに
十分に 意識を向けたい。